特許権価値評価コラム

事業全体のDCFから特許価値をどう切り分ける?―利益分割法と超過収益法の考え方

特許を使用する事業についてDCF法で価値を算定しても、その金額がそのまま特許の価値になるわけではありません。

事業から生じる利益は、特許だけで生み出されるものではないからです。製造設備、運転資本、販売網、従業員の経験、顧客関係、ブランド、ノウハウなど、複数の資産や活動が組み合わさって事業利益が生じます。

したがって、事業全体のDCFから特許価値を求める場合には、まず事業全体の将来利益を見積もり、そのうちどの部分が対象特許に帰属するのかを検討する必要があります。

事業価値と特許価値は同じではない

DCF法では、事業が将来生み出すキャッシュ・フローを見積もり、それを現在価値へ割り引いて事業価値を算定します。

しかし、その事業価値には、対象特許以外の資産が生み出す価値も含まれています。例えば、同じ特許を保有していても、製造設備、販売網、技術者、顧客基盤を持つ会社と、特許だけを保有する会社では、実現できる利益が異なります。

事業全体のDCFをそのまま特許価値とすると、設備や人材、ノウハウなどの貢献まで特許へ帰属させることになり、特許価値を過大に評価する可能性があります。

重要なのは、事業価値を計算した後に一定割合を機械的に掛けることではありません。どの資産や活動が、どのように利益の発生へ貢献しているのかを整理することです。

利益分割法では特許の貢献部分を配分する

利益分割法は、事業から生じる利益を、対象特許とその他の資産や活動へ分ける考え方です。

例えば、対象特許によって競合製品との差別化が実現し、販売価格の上昇、販売数量の増加、製造コストの削減などが生じている場合、その増加利益の全部又は一部を特許の貢献と考えます。

検討の出発点となるのは、次のような事項です。

  • 特許がなければ、同じ製品を製造・販売できるか
  • 代替技術を利用した場合、売上や費用はどう変わるか
  • 特許によって、価格、数量、原価又は事業リスクがどの程度変わるか
  • 利益の実現に必要なノウハウ、設備、人材、販売網は何か
  • 特許以外の資産が利益へどの程度貢献しているか

特許が製品の中心的な機能を保護している場合と、一部の製造工程だけに関係する場合とでは、利益への貢献度は異なります。

利益の一定割合を特許へ配分する方法は分かりやすい一方、その割合に合理的な根拠がなければ、計算結果の説明力は高まりません。過去に用いられてきた利益三分法や25%ルールなども、個別案件の事情を検討せず、そのまま適用できる基準ではありません。

超過収益法では他の資産の貢献利益を控除する

超過収益法は、事業全体の利益から、対象特許以外の資産に必要な収益を控除し、残った利益を対象特許に帰属する超過収益として捉える方法です。

事業を運営するためには、売掛金や在庫などの運転資本、工場や機械などの固定資産、従業員が持つ技術や経験、顧客関係などが必要です。これらの資産を利用する以上、それぞれに対応する一定の収益が必要と考えます。

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 対象事業の将来収益を見積もる
  2. 税金を考慮した事業利益を計算する
  3. 運転資本、固定資産、人的資産等に対する要求収益を控除する
  4. 残った超過収益のうち、対象特許へ帰属する部分を求める
  5. 特許固有のリスクを反映した割引率で現在価値へ割り引く

ただし、控除後に残った利益が自動的にすべて特許価値になるわけではありません。対象事業にブランド、顧客関係、契約、ソフトウェア、ノウハウなど、ほかの無形資産が存在する場合には、それらの貢献も検討する必要があります。

特許とノウハウを分けられるとは限らない

製品や技術によっては、特許公報に記載された情報だけでは事業化できず、製造条件、材料の配合、品質管理、技術者の経験などのノウハウが不可欠です。

この場合、利益は特許だけではなく、特許とノウハウが組み合わさることによって生じています。特許が法的な排他性を与え、ノウハウが実際の製造や品質維持を可能にしていることもあります。

そのため、事業利益をすべて特許へ帰属させるのではなく、特許とノウハウを一体として評価するのか、それぞれの役割を分けて評価するのかを、評価目的に応じて決めなければなりません。

形式的に登録特許だけを抜き出すと、特許の価値を過大に評価したり、反対に技術全体の競争力を十分に捉えられなかったりする可能性があります。

現在の特許と将来の研究開発を区別する

事業計画には、現在の特許を利用した製品だけでなく、将来の改良品や次世代製品の売上が含まれていることがあります。

将来の研究開発によって完成する技術や、今後取得する特許がなければ実現できない利益まで、現在保有する特許の価値へ含めることは適切ではありません。

事業計画を使用する場合には、各年度の売上や利益が、現在の特許から生じるのか、将来の研究開発投資から生じるのかを確認します。研究開発費を単に費用として控除するだけでなく、その投資によって生じる将来利益の帰属先も整理する必要があります。

特許群の利益を個別特許へそのまま配分しない

一つの製品に複数の特許が使用されている場合、事業利益は特許群全体によって支えられていることがあります。

その中には、競合他社の参入を防ぐ中心特許もあれば、製造工程の一部を効率化する特許、他社による回避設計が比較的容易な特許もあります。

特許群全体の価値を個別特許へ分ける場合には、各特許の権利範囲、製品との対応関係、代替可能性、残存期間、無効となるリスクなどを確認します。特許数だけで均等に分ける方法では、各特許の実際の役割を反映できません。

評価期間と割引率も特許に合わせて検討する

事業全体のDCFで使用した予測期間を、そのまま特許評価の期間にできるとは限りません。

特許権の法的な残存期間が長くても、技術の陳腐化や代替技術の登場によって、利益を生み出せる期間が短くなることがあります。反対に、一つの特許が満了しても、関連特許やノウハウによって事業上の優位性が一定期間続く場合もあります。

また、事業全体の割引率と特許固有のリスクが同じとも限りません。対象特許の有効性、事業化の進捗、代替技術、市場規模、侵害の発見可能性などを踏まえ、評価対象に対応したリスクを検討します。

一方で、事業価値、他の資産の価値、特許価値を別々に算定する場合には、それぞれの評価結果と割引率が全体として矛盾しないことも必要です。

大切なのは、利益を切り分けた根拠を説明できること

事業全体のDCFから特許価値を切り分ける作業では、計算式以上に、利益の発生構造を明らかにすることが重要です。

対象特許が売上の増加、価格の維持、原価の削減又は事業リスクの低下にどう貢献しているのか。利益の実現に必要な他の資産は何か。現在の特許と将来の研究開発をどのように区別したのか。これらを一つずつ整理することで、配分の根拠を説明できる評価になります。

当研究所では、事業計画と対象特許の関係を確認し、特許、ノウハウ、設備、人材その他の資産の貢献を整理したうえで、評価方法、前提条件及び算定過程を示した特許権価値評価報告書を作成します。

事業全体の価値は見積もれているものの、そのうち対象特許に帰属する価値をどのように整理すべきか分からない場合は、ご相談ください。