特許権価値評価コラム

特許のライセンス料率はどう決める?―平均料率と個別条件の調整方法

特許の価値をロイヤルティ免除法で評価するとき、算定結果を大きく左右するのがライセンス料率です。

業界別の平均料率や公表資料は参考になりますが、その数値を対象特許へそのまま適用できるとは限りません。同じ分野の特許でも、権利範囲、代替技術の有無、対象製品への貢献度、契約条件などによって、妥当な料率は変わるからです。

本記事では、特許評価に使用するライセンス料率について、どのような資料を参照し、どのように個別条件を反映するのかを解説します。

ロイヤルティ免除法とライセンス料率

ロイヤルティ免除法は、対象特許を所有していなければ、第三者へ支払う必要があったと考えられるライセンス料を基礎として、特許の価値を算定する方法です。

基本的には、対象となる売上高へライセンス料率を乗じ、将来の税引後ロイヤルティ相当額を現在価値へ割り引きます。

年間売上高が1億円、ライセンス料率が3%であれば、年間のロイヤルティ相当額は300万円です。もっとも、この3%をどのような根拠で設定するかによって、評価額は大きく変わります。

そのため、計算式へ数値を入れる前に、料率の根拠と適用条件を確認する必要があります。

料率の根拠は実際の契約から検討する

料率を検討するときは、対象特許との比較可能性が高い情報から順に確認します。

代表的な資料は次のとおりです。

  • 対象特許について締結されたライセンス契約
  • 評価対象会社が締結した類似技術の契約
  • 第三者間で締結された比較可能なライセンス契約
  • 業界別・技術分野別の料率に関する公表資料

対象特許について実際の契約が存在すれば、有力な資料になります。ただし、その料率が評価時点でも妥当とは限りません。契約締結時から技術の競争力、市場環境、事業化の状況などが変化している可能性があるためです。

第三者間の契約を参照する場合も、技術分野が同じというだけでは十分ではありません。契約条件と対象特許の経済的な位置づけを比較する必要があります。

比較契約では料率以外の条件も確認する

ライセンス契約の経済条件は、表面上の料率だけで決まりません。比較に当たっては、少なくとも次の事項を確認します。

  • 独占契約か非独占契約か
  • 対象地域と契約期間
  • 一時金や最低保証料の有無
  • 対象となる特許や技術の範囲
  • ノウハウの提供や技術支援を含むか
  • 再実施権が認められているか
  • 料率を乗じる売上高がどのように定義されているか

例えば、同じ3%でも、特許だけを利用する契約と、製造ノウハウや継続的な技術支援まで含む契約とでは内容が異なります。比較契約に付随サービスの対価が含まれている場合、その料率を特許単独の評価へ直接使用することは適切でない可能性があります。

平均料率は結論ではなく出発点

比較可能な契約が十分に見つからない場合には、業界別または技術分野別の平均料率を参照することがあります。

平均料率は、検討する範囲が著しく外れていないかを確認する資料として有用です。しかし、平均値には、権利の強さや事業への貢献度が異なる多数の契約が含まれています。

したがって、「同じ業界だから平均料率を採用する」のではなく、平均料率を出発点として、対象特許の個別事情による調整を検討します。

料率と売上高の範囲は一体で検討する

ロイヤルティ相当額は、料率だけでなく、その料率を乗じる売上高によっても変わります。

対象となる売上高には、製品全体の売上高、対象技術を使用する部品の売上高、特定のサービス売上高など、複数の考え方があります。

対象特許が製品の一部分にだけ関係しているにもかかわらず、製品全体の売上高へ料率を乗じれば、価値を過大に算定する可能性があります。一方、特許が製品の主要な機能や競争力を支えている場合には、狭い売上高だけを対象とすることで、貢献を十分に反映できないことがあります。

料率の高さだけを比較するのではなく、何の売上高へ適用される料率なのかを確認することが重要です。

対象特許の個別性を料率へ反映する

比較資料を確認した後、対象特許の個別事情を踏まえて料率を調整します。

権利範囲と代替技術

権利範囲が広く、競合他社が回避しにくい特許は、事業上の重要性が高くなる可能性があります。反対に、容易に代替できる技術が存在する場合や、権利の有効性に不確実性がある場合には、慎重な評価が必要です。

事業への貢献度

対象製品の売上や利益が、特許だけによって生み出されているとは限りません。ブランド、営業力、製造設備、他の特許、ノウハウなども事業へ貢献しています。

対象特許が製品の中核機能を支えているのか、複数の要素の一つにすぎないのかを検討し、その貢献度を料率へ反映します。

残存期間と事業化の状況

特許の法的な残存期間が短い場合、将来得られるロイヤルティ相当額の期間も限られます。また、技術の陳腐化が早い分野では、法的な存続期間よりも経済的な利用期間が短くなることがあります。

事業化前の特許については、製品化の可能性、市場投入までの期間、追加開発の必要性なども検討します。これらのリスクは、料率だけでなく、売上予測や事業化確率、割引率にも適切に反映する必要があります。

一つの料率に絞れない場合は感応度を確認する

十分な資料を確認しても、唯一の正しい料率が得られるとは限りません。その場合は、合理的な料率の範囲を設定し、評価額がどの程度変動するかを確認します。

年間売上高が1億円の場合、料率が1%変われば、税引前のロイヤルティ相当額は年間100万円変わります。この差が複数年続くため、料率の設定は評価額へ大きな影響を与えます。

そのため、単一の料率だけを示すのではなく、採用した料率の根拠と、異なる料率を採用した場合の評価額も示すことが有用です。

契約上の料率と評価上の料率は区別する

実際のライセンス契約で定める料率には、当事者の交渉力、資金需要、取引関係、販売支援など、個別の事情が反映されます。

一方、価値評価で使用する料率は、評価目的と評価時点を前提として、対象特許から得られる経済的利益を見積もるための数値です。

したがって、実際の契約料率が存在していても、それを無条件に評価へ使用するのではなく、契約条件が評価目的と整合しているかを確認する必要があります。

なお、利益の一定割合を知的財産へ配分する、いわゆる25%ルールなどが参考にされることもありますが、個別の技術や契約条件を直接反映したものではありません。料率を決定する唯一の根拠ではなく、補助的な確認材料として扱うことが適切です。

まとめ

特許評価に使用するライセンス料率は、業界平均だけで機械的に決めるものではありません。

実際の契約や公表資料から基礎となる料率を確認し、契約条件、対象売上高、権利範囲、代替技術、事業への貢献度、残存期間などを比較したうえで、対象特許に適した料率を検討します。

また、一つの料率に絞ることが難しい場合には、合理的な範囲を設定して感応度を確認することも重要です。

株式会社知的財産権価値算定研究所では、評価目的や対象特許の内容、事業計画、比較可能な契約情報などを踏まえ、特許の経済的価値を検討します。特許の譲渡、ライセンス、組織再編その他の場面で評価が必要な場合は、ご相談ください。