知財・無形資産コラム

秘密を明かさず、模倣しにくさをどう伝える?――日立『統合報告書2025』に学ぶ

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知財開示事例連載・第6回

統合報告書に「当社ならではの強み」を書きたい。けれども知財部が詳しく知る技術やノウハウには、社外へ出せない情報もあります。「他社にはまねできない」と書くだけでは、読み手にその理由が伝わりません。

前回はブリヂストンの報告書を手がかりに、特許に加えて、ノウハウやデータなども事業を支える強みになることを見ました。今回は、それらがどう組み合わさり、顧客へのサービスになるのかを、日立の『統合報告書2025』から考えます。

顧客の現場にあるものから説明する

日立は「Lumadaの進化」の中で、世界各地の顧客のもとに導入されている製品やシステムを出発点にしています。そこから得られるデータに、現場を理解する知見とAIなどのデジタル技術を組み合わせ、顧客の課題に応えるサービスへつなぐという説明です。〔出典1:p.14–15〕

報告書では、導入済みの製品・システムを「インストールベース」と呼びます。日立が示すのは、AIという技術だけではありません。顧客の現場で使われている製品やシステムがあり、その運用を知ることが、サービスを考える土台になります。

自社で説明を作るなら、まず事業部に「当社の製品やシステムは、顧客のどの仕事で使われていますか」と聞いてみます。営業やサービスの担当者には、使い始めた後の困りごとも聞く。顧客との接点を押さえると、技術を何のために使うのかが具体的になります。

強みが顧客へ届くまでを、一続きで示す

報告書のp.15は、導入済みの製品・システムからデータを集め、現場の知見とデジタル技術を合わせてサービスに生かし、そこで得た知見を製品やサービスの開発へ戻す流れを示しています。予兆診断、保守・運用、遠隔監視などは、同ページに挙げられたサービスの例です。顧客との協創や外部パートナーとの連携にも触れています。〔出典1:p.15〕

この説明では、特許、データ、現場の知見を別々の項目として並べていません。顧客の現場で使われるものがあり、そこで分かった課題に技術と知見を使って応え、その経験を次へ生かす。一つひとつの技術の詳しい仕組みを示さなくても、複数の強みが結び付いて働く様子が見えます。

「模倣しにくい」と書く前に、自社でもこのつながりを確かめられます。顧客との接点はどこにあるか。現場で何を学び、どんな技術や知見と合わせているか。それが顧客のどの仕事に役立つか。事実を順に示せば、読み手は強みを製品名や特許件数だけで判断せずに済みます。

サービスの働きを伝え、守る情報を見極める

日立の研究開発戦略には、AIエージェント「Naivy」の例があります。設備やシステムから集めたデータと現場の知見を組み合わせ、現場作業者に対応策を示すというものです。報告書は、技術の細かな実装より、現場の作業をどう支えるかを説明しています。〔出典2:p.16「研究開発戦略」〕

同じページの知的財産戦略では、発明だけでなく、ソフトウェア、データ、意匠、ノウハウや企業秘密などを保護・管理する方針を示しています。サービスとして何を届けるかを伝えることと、その仕組みを支える情報を管理することは、両方必要です。〔出典2:p.16「知的財産戦略」〕

知財部が自社の開示原稿に関わる際も、事業部や研究開発部門から、顧客に提供しているサービスと、それを支える技術・情報を聞き取ります。そのうえで、顧客への働きとして説明できることと、技術の詳細や顧客固有の情報として守ることを分けます。

自社の一つの事業で、説明を組み立てる

最初から全事業の強みを整理する必要はありません。公表できる製品やサービスを一つ選び、次の順で関係部門に確認します。

確認すること 主に聞く相手 記録する内容
顧客のどの仕事で使われ、何に困っているか 事業部・営業・サービス部門 製品・サービスが使われる場面と顧客の課題
何を組み合わせて応えているか 研究開発・サービス部門 技術、利用するデータ、現場で培った知見、それぞれの役割
どこまで公表できるか 知財部・事業部 説明できるサービスの働きと、守るべき技術・情報

答えがそろったら、「当社は○○の現場で培った知見と□□の技術を組み合わせ、顧客の△△という仕事を支えています」と書いてみます。実際の取り組みに合っているか、公表できる範囲かを確認すれば、秘密の中身を示さずに、強みが働く仕組みを伝える原稿になります。

第5回では、事業を支える強みの種類を広げました。今回は、それらを組み合わせて顧客へ届ける流れを見ました。次回は、その仕組みを支える知財部の活動を、事業に役立つ成果としてどう示すかを考えます。

参照資料

  1. 日立『統合報告書2025』「Lumadaの進化」p.14–15
  2. 同「研究開発戦略/知的財産戦略」p.16