知財・無形資産コラム

知財部の調査結果を、事業の判断にどうつなげる?――島津製作所『統合報告書2025』に学ぶ

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知財開示事例連載・第7回

統合報告書の担当者から「知財部の成果を教えてください」と頼まれたら、特許の出願件数や保有件数、調査したテーマの数は答えられるかもしれません。では、調査結果を事業部へ渡した後、何が話し合われたでしょうか。そこまでたどらないと、件数だけでは知財部の仕事が事業にどう役立ったかを説明しにくくなります。

前回は日立の報告書を手がかりに、製品・システム、データ、現場の知見、デジタル技術を組み合わせて顧客へ価値を届ける流れを見ました。そのような事業を考える際に、知財部はどんな情報を持ち込めるのでしょうか。

島津製作所の『統合報告書2025』は、特許の保有状況に加え、IPランドスケープを研究開発やビジネス戦略に使う活動を示しています。知財部の仕事と事業の検討を結び付ける書き方を、同報告書の知的資本欄とp.52から考えます。

三つの数字は、それぞれ何を示すか

報告書の知的資本欄には、2024年度末の特許保有総数8,554件と、「IPLおよびビジネスモデル構築件数」5件が載っています。IPLは、IPランドスケープの略です。島津製作所は、特許情報などを市場の情報と合わせて分析し、事業の強化や新事業の創出に役立てる活動と説明しています。〔出典1・2〕

さらに報告書p.52には、2024年度に72テーマの研究開発などでIPLを実施したとあります。8,554件は保有特許、72テーマはIPLを実施した対象、5件は報告書が「IPLおよびビジネスモデル構築件数」として示す実績です。同じ知的資本の話でも、数字が数えているものは異なります。〔出典1:p.52〕

知財部が自社の原稿を作るときも、出願・保有件数に加えて、調査したテーマと、その結果を事業のどんな検討に使ったかを分けて整理すると、活動の姿が伝わりやすくなります。

調査を始めたとき、事業側は何を知りたかったか

報告書p.52では、研究開発やビジネス戦略の立案にIPLを活用し、新たなビジネス戦略を立案したと説明しています。また、知財を権利化またはノウハウとして蓄積し、価値創造、オープン・クローズ、サプライチェーン、ブランディングなどに活用する流れを示しています。〔出典1:p.52〕

自社でもIPLの実施件数を報告する前に、一件の調査を振り返ってみます。事業部は、新しい用途を探したかったのか。競合の動向を知って開発の方向を考えたかったのか。提携の可能性を検討したかったのか。同じ分析でも、最初の問いによって、事業部に渡すべき情報が変わります。

調査の依頼内容を確認したら、結果を受け取った担当者にも話を聞きます。「資料を渡した後、どの選択肢を比べましたか」。この答えがあれば、知財部が何を調べたかに加え、その情報を何のために使ったかを書けます。

次の事業検討まで書く

島津製作所はp.52で、IPLの活用と新たな戦略立案を述べる一方、検討の範囲が食品などの既存市場にとどまっていることも課題として挙げています。今後は、標準化などのルール形成による市場創造や、事業を進める社内チームの形成が重要だと説明しています。〔出典1:p.52〕

分析によって有望な方向が見えても、製品やサービスとして届けるまでには仕事が続きます。市場をどう作るか、誰と組むか、社内のどの部門が進めるか。知財部の分析結果は、こうした検討に渡されて初めて次の行動につながります。

自社の開示でも、事業化まで一気に説明しようとする必要はありません。「知財情報を使って何を検討したか」と「次に何を確かめるか」を続けて示すと、知財部の活動が事業側の仕事につながっている様子を伝えられます。

自社の調査案件を一つ選んで確かめる

事業部や研究開発部門と進めた調査を一件選びます。知財部に残る依頼書と報告書を見た後、結果を受け取った担当者にも確認してみてください。

確認すること 主に聞く相手 記録する内容
何を決めるための調査だったか 事業部・経営企画 対象事業と、用途・開発・提携などの検討事項
調査から何が分かったか 知財部・研究開発部門 自社と他社の技術・権利の位置関係、事業側へ渡した情報
受け取った後に何を検討したか 事業部・研究開発部門 比較した選択肢、採用・変更した方針、残った課題

たとえば「○○事業の新たな用途を検討するため、知財情報と市場情報を分析しました。その結果を事業部と共有し、□□の開発方針を検討しています」と書けます。実際に方針を決めた案件なら、その内容を関係部門に確認して加えます。

第6回では、複数の強みを組み合わせて顧客へ届ける流れを見ました。今回は、そのような事業を考える際、知財部の分析をどの検討に使うかを見ました。次回は、その検討結果や残る課題を誰と話し合い、知財活動の優先順位にどうつなげるかを考えます。

参照資料

  1. 島津製作所『統合報告書2025』 知的資本欄、p.52「知的財産戦略」
  2. 島津製作所「知的財産マネジメント」「知的財産の戦略的活用」