新しい事業について知財調査を頼まれ、他社の権利や自社技術の状況をまとめた。事業部へ結果を渡すとき、「次は何を調べるべきか」「どの技術を守るべきか」まで話せているでしょうか。事業が進む方向を知らなければ、知財部だけで優先順位を決めるのは難しいものです。
前回は島津製作所の報告書を手がかりに、知財分析の結果を事業の検討にどう使うかを考えました。今回は、その検討を受けて知財活動の優先順位をどう話し合うかを、アネスト岩田の『統合報告書2025』から見ていきます。
事業が変われば、知財の論点も変わる
アネスト岩田は、既存事業で磨いてきた「液体の霧化」と「気体の圧縮」をコア技術として挙げています。一方、新規事業では異業種との連携を通じ、これまでになかった知的財産や無形資産の獲得にも取り組むと説明しています。〔出典1:p.33〕
既存の製品については、培った技術をどう守り、活用し続けるか。新たな領域では、他社の権利を調べ、どの技術を自社に蓄えるか。事業の方向が違えば、知財部が先に取り組む課題も変わります。
報告書は、スプレーガンのノズル形状などに関する特許と、関連製品の意匠・商標による権利網を紹介しています。技術ノウハウを秘匿して管理する活動も示しています。〔出典2:p.34〕これらを自社の原稿で説明するときも、権利の種類を並べるだけでは、なぜその活動に力を入れるのかが伝わりません。事業部とともに、どの事業の、どんな強みを支える活動なのかを確かめる必要があります。
実績を振り返り、次の優先順位を話し合う
アネスト岩田は、2024年度に「知財戦略会議」を始めました。報告書によると、知財戦略を運営する目的や到達目標を全社で共有し、国内外の特許・意匠・商標の出願実績や、主な知財取得事例を振り返っています。〔出典3:p.35〕
件数や取得事例は、これまで何に取り組んだかを示します。そこから一歩進めて、今後の事業に合わせて何を優先するかを考えることが、この事例の要点です。
同社は2025年度、新領域や海外での事業展開と連動した知財戦略の策定を進めています。知財戦略会議では、知財のKPI設定、先行技術調査の優先順位付け、発明表彰制度の見直しも議論していると説明しています。〔出典3:p.35〕
自社でも出願実績を報告する際、「新たに進める事業について、どの技術や市場を先に調べるか」「活動が進んでいるかを何で確かめるか」を事業部に尋ねられます。数字の報告に次の問いを添えることで、知財部の資料は事業の方向を話し合う材料になります。
話し合った方向を、企画・開発との仕事に戻す
アネスト岩田は、新規事業を生み出す段階から、知財部門が企画・開発部門と密に連携する方針を示しています。M&AやPMIの過程でも、知財面の鑑定やリスク分析を進めると説明しています。〔出典3:p.35〕
知財部が調査の優先順位を考えるには、企画部門がどの顧客や市場を検討しているか、開発部門がどの技術を使おうとしているかを知る必要があります。その情報があって初めて、他社のどの権利を調べ、自社の何を権利化または秘匿化するかを具体的に検討できます。
同社は、知財戦略会議を通じて、事業戦略に対応した知財ポートフォリオの計画的な構築が進んでいるとも述べています。〔出典3:p.35〕会議で話し合った方向を、次の調査や保護活動へ戻す。このつながりまで示すと、知財部が事業にどう関わっているかが見えてきます。
自社の一件を、議論できる形にする
自社でも、事業部が検討している案件を一つ選びます。知財部の手元にある情報から書き始める前に、まず何を決めるための検討なのかを聞いてみてください。
| 確認すること | 主に聞く相手 | 記録する内容 |
|---|---|---|
| 事業側は次に何を検討しているか | 事業部・経営企画 | 対象の事業・市場、検討している選択肢と時期 |
| 知財部が判断材料として示せるものは何か | 知財部・研究開発部門 | 自社の権利やノウハウ、他社動向、追加調査が必要な点 |
| 誰と議論し、その後どう動くか | 事業部・会議の事務局 | 自社で実際に使う会議や打合せ、次の担当者と確認時期 |
たとえば「○○事業の展開に向け、□□を守る方法と、△△について先に調べる必要性を、事業部・開発部門と検討しています」と書けます。何を調べたかに加え、その情報を使って何を話し合い、次にどう動くかまで示せれば、知財活動と事業の関係が伝わります。
前回は、知財分析を事業の検討にどう使うかを見ました。今回は、その検討を受けて知財活動の優先順位を話し合い、関係部門との仕事につなぐ方法を考えました。次回は、こうした取り組みを社外へどう伝え、対話につなげるかを見ていきます。