「この特許は、いくら売上を生んでいますか?」
特許権の価値を考えるとき、まず確認したくなる数字です。
特許を使った製品が年間10億円売れている。
その技術によって高い利益率を実現している。
ライセンス収入を得ている。
こうしたケースなら、特許権と収益との関係をイメージしやすいでしょう。
では、その特許権自体は売上を生んでいない場合はどうでしょうか。
実務では、ここがそれほど単純ではありません。
売上を生むことだけが、特許権の役割ではない
例えば、ある会社が主力製品に関する特許権を持っているとします。
その特許権を他社にライセンスしているわけではありません。
特許使用料も入ってきません。
会計帳簿を見ても、
「この特許による売上 ○億円」
という数字が載っているわけではありません。
それでも、その特許権が競合他社による同じ技術の利用を防いでいるとしたらどうでしょうか。
特許権があることで競合他社の参入を難しくし、自社の製品や市場を守っている。
この場合、特許権は直接収益を生み出してはいません。
しかし、現在の事業や利益を「守る」という役割を果たしている可能性があります。
「生み出している利益」ではなく、「守っている利益」
ここは、特許権の経済的価値を考えるうえで重要な視点です。
一般には、
「その特許によって、いくら儲かったのか」
と考えたくなります。
しかし、特許権の役割はそれだけではありません。
「その特許権があることによって、何が守られているのか」
という見方も必要です。
例えば、その特許権がなくなったら、
競合他社が同じ市場に参入しやすくなる。
価格競争が激しくなる。
自社の市場シェアが低下する。
製品の差別化が難しくなる。
といったことが起こる可能性があります。
つまり、特許権の価値は、
「新たにいくら稼いだか」
だけでなく、
という観点からも考える必要があります。
いわゆる「防衛特許」
こうした役割を持つ特許について、「防衛特許」という言葉が使われることがあります。
自社が積極的にライセンス収入を得るためというより、競合他社の参入や模倣を防ぎ、自社の事業を守るために保有している特許です。
こうした特許は、
「この特許から年間○千万円の収入があります」
とは説明しにくいものです。
だからといって、
「直接収入がないから価値はゼロ」
と判断するのも適切ではありません。
特許権が存在することで、現在の事業環境が維持されている可能性があるからです。
では、「守っている利益」がそのまま特許権の価値?
ここでも注意が必要です。
例えば、その特許権に関連する事業が年間1億円の利益を上げているとします。
だからといって、
「この特許権が1億円の利益を守っている。だから特許権の価値も1億円」
とは単純にはいえません。
事業の利益は、特許権だけによって生まれているわけではないからです。
製品そのものの品質。
ブランド。
営業力。
製造能力。
人材。
顧客との関係。
ほかの技術や知的財産。
さまざまな要素が組み合わさって事業の利益を生み出しています。
特許権がその中でどのような役割を果たしているのかを考える必要があります。
この「事業全体の価値と特許権の価値をどう切り分けるか」という問題は、第8記事で詳しく取り上げます。
「重要な防衛特許」なら、価値も高い?
もう一つ区別しておきたいことがあります。
社内で、
「これは非常に重要な防衛特許です」
と評価されているからといって、それだけで金額としての価値が高いと決まるわけではありません。
例えば、
その特許権がなくても別の技術で代替できるのか。
競合他社が容易に回避できるのか。
実際に守っている事業の規模はどの程度なのか。
権利が残っている期間はどのくらいなのか。
などによって、経済的な意味は変わります。
知財としての重要性と、金額としての経済的価値は関連しますが、同じものではありません。
この違いについては、第5記事で詳しく取り上げます。
「売上がないから評価できない」ではない
特許権価値評価では、分かりやすいライセンス収入や特許に直接紐づく売上があるケースばかりではありません。
むしろ、
「この特許が、どの売上を生んでいるのか分からない」
「収益には直接表れていないが、事業上は重要だ」
というケースもあります。
そのような場合に、
「直接収益がないからゼロ」
とするのではなく、
その特許権が事業の中でどのような役割を果たしているのか。
その特許権がある場合と、ない場合で何が変わるのか。
という視点から経済的価値を考えていきます。
特許権の価値は、「稼ぐ力」だけではありません。
事業を守る力が、経済的な価値につながることもあります。
「この特許、いくら?」
その答えを考えるには、売上の数字だけでは見えない特許権の役割にも目を向ける必要があります。