特許権を売買するとき、
「いくらで取引するのか」
は当事者にとって重要な問題です。
そして、取引の相手が関係会社などであれば、その金額は税務上も重要になります。
例えば、
自社が保有する特許権を関係会社へ譲渡する。
グループ内で特許権を移転する。
特許権を現物出資する。
こうした取引では、
「なぜ、その金額で取引したのか」
を説明できることが重要になります。
そこで、特許権価値評価が使われることがあります。
特許権には、株価のような市場価格がない
上場株式であれば、市場で日々価格がついています。
一方、特許権には通常、
「今日のこの特許権の価格は5,000万円」
と確認できる市場価格がありません。
しかも、一つ一つの特許権で、
技術内容。
権利範囲。
残存期間。
利用される市場。
事業への貢献。
などが異なります。
そのため、税務上「時価」を考える必要がある場合でも、単に市場価格を調べれば済むとは限りません。
対象となる特許権について、個別に価値を検討する必要があります。
なぜ関係会社間の取引では、価格が問題になるのか
第三者同士の取引であれば、通常、売り手はできるだけ高く売ろうとし、買い手はできるだけ安く買おうとします。
双方の利害が対立する中で交渉が行われ、その結果として取引価格が決まります。
一方、親会社と子会社などの関係会社間では事情が異なります。
同じグループ内であれば、第三者同士の取引ほど価格について利害が対立しないことがあります。
例えば、本来1億円の価値があるものを1,000万円で譲渡すれば、売り手側から買い手側へ価値を移すことができます。
反対に、価格を高く設定することでも、会社間で利益を移すことができます。
このように、関係会社間では取引価格を通じて所得や価値を移転できるため、税務上もその価格の妥当性が問題になりやすくなります。
だからこそ、
「グループ会社同士で話し合って、この金額にしました」
だけではなく、
なぜ、その価格なのか
を説明できることが重要になります。
第三者による評価が、価格の客観性を高める
そこで意味を持つのが、第三者による特許権価値評価です。
対象となる特許権や事業について資料を確認し、評価方法や前提条件を検討したうえで、金額としての価値を算定する。
そして、その検討過程を評価報告書として残す。
これは、
取引当事者だけで価格を決めたのではなく、第三者による価値評価を踏まえて取引価格を検討した
ことを示すことになります。
特に関係会社間取引では、この違いには意味があります。
取引を行う段階で第三者に評価を依頼し、その結果を踏まえて価格を検討したという事実自体が、取引価格の客観性を高める材料になります。
評価報告書では「なぜ、この金額なのか」を残す
税務目的の評価でも、重要なのは最終的な評価額だけではありません。
どの特許権を評価したのか。
どのような資料を確認したのか。
どのような評価方法を採用したのか。
どのような前提で算定したのか。
こうした検討内容を評価報告書として残します。
例えば、数年後に税務調査で、
「なぜ、この特許権を5,000万円で譲渡したのですか?」
と聞かれたとします。
そのとき、当時の担当者の記憶だけに頼るのと、取引時点で作成した評価報告書があり、
「当時入手できた情報をもとに、このように評価して取引価格を検討しました」
と説明できるのとでは違いがあります。
第3記事でも取り上げたように、評価報告書には、単に金額を示すだけではなく、その時点でどのように判断したのかを残す役割があります。
税務で使う評価だからこそ、確認すること
税務に関係する評価では、評価額がどのような取引に使われるのかも確認します。
例えば、
どのような取引なのか。
誰から誰へ特許権を移転するのか。
どのような事業で利用されるのか。
どのような取引条件なのか。
といった背景です。
関係会社間の取引であれば、その関係性も確認します。
また、国外の関係会社との取引であれば、移転価格税制などの税務上の論点にも留意します。
こうした取引の背景や利用目的を確認したうえで、特許権の価値を検討していきます。
評価報告書があれば、税務上必ず認められる?
ここは注意が必要です。
第三者による評価報告書を取得したからといって、その評価額が税務上必ず認められるというものではありません。
税務で利用することを前提に評価し、第三者による評価を受けて取引金額を検討したこと自体も、その金額の客観性を説明する材料になります。
一方、実際の税務上の判断には、評価額以外の事情も関係します。
例えば、
実際の契約内容や取引の実態。
取引を行った目的や経緯。
会社全体の税務上の状況。
他の取引や税務論点との関係。
過去の税務調査での指摘。
税務署とのこれまでのやり取り。
などです。
国外の関係会社との取引であれば、移転価格税制をはじめ、さらに検討すべき税務上の論点が生じることもあります。
こうした事情の中には、特許権価値評価だけでは把握しきれないものもあります。
そのため、評価を実際の取引や税務申告にどう使うかについては、会社全体の税務状況を把握している顧問税理士等とも相談して進めることが重要です。
税務だからこそ、「後から説明できる金額」にする
特許権には、上場株式のように誰でも確認できる市場価格がありません。
さらに関係会社間取引では、第三者同士の取引ほど価格について利害が対立しないため、取引価格の妥当性がより重要になります。
だからこそ、
なぜ、この特許権をこの金額と考えたのか。
を取引時点で検討しておく意味があります。
第三者が特許権の価値を評価する。
その評価を踏まえて取引価格を検討する。
そして、評価の過程を評価報告書として残す。
そうすることで、後から税務上の説明が必要になったときにも、
「このような考え方と情報に基づいて、この金額を検討しました」
と説明するための材料になります。
評価報告書が税務上の結論を保証するものではありません。
それでも、税務上の利用を意識して特許権の価値を検討し、第三者による評価として記録に残しておくことには大きな意味があります。