特許権価値評価コラム

第5回/全10回

「強い特許」なら価値も高い?―知財の強さと経済的価値は同じではない

「この特許は強い」

知財の世界では、よく使われる表現です。

技術的な優位性がある。

権利範囲が広い。

他社が回避しにくい。

競合他社の事業を押さえられる。

こうした特許は、知財として重要であることは間違いありません。

では、

「強い特許」=「金額としても価値の高い特許」

なのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。

「強さ」と「経済的価値」は、見ているものが違う

特許の強さを考えるときには、技術や権利そのものが重要になります。

一方、特許権の経済的価値を金額で考えるときには、

その技術がどのような事業に使われているのか。

その事業にどの程度の市場があるのか。

どのような収益につながっているのか。

その特許権が事業の中でどのような役割を果たしているのか。

といった視点も必要になります。

つまり、

「特許としてどれだけ強いか」と「会社にどのような経済的価値をもたらしているか」は、同じ問いではありません。

とても強い特許でも、市場が小さければ?

極端な例で考えてみます。

技術的には非常に優れていて、権利範囲も広く、他社が簡単には回避できない特許権があるとします。

知財として見れば、非常に強い特許です。

しかし、その技術が使われる市場が年間1,000万円しかなかったらどうでしょうか。

一方で、別の特許は、技術的にはそこまで画期的ではないかもしれません。

しかし、年間数百億円規模の事業を支える重要な技術として使われている。

この二つを比べて、

「前者の方が特許として強いから、必ず金額も高い」

とはいえません。

経済的価値を考えるには、その特許権が存在する事業や市場の大きさも無視できないからです。

逆に、売上が見えない特許でも価値がある

反対のケースもあります。

第2記事で取り上げた防衛特許です。

その特許権自体からライセンス収入を得ているわけではない。

直接紐づく売上も見えない。

それでも、その特許権が競合他社の参入を防ぎ、大きな事業を守っているのであれば、経済的な意味を持つ可能性があります。

つまり、

「直接いくら稼いでいるか」

だけを見ても、特許権の経済的価値を捉えきれません。

ここでも重要なのは、特許権が事業の中で何をしているのかです。

知財部門から見た重要性と、経営から見た重要性

ここは、会社の中でも見え方が変わるところです。

知財部門では、

権利範囲。

技術的優位性。

競合他社の特許。

権利侵害や回避可能性。

特許ポートフォリオの中での位置づけ。

などを詳細に検討します。

当然、どれも重要です。

一方、経営者や事業部門、経理・財務部門などから見ると、さらに別の問いが加わります。

「この特許は、会社のどの事業に貢献しているのか」

「この特許があることで、会社の利益はどう変わるのか」

「この特許を売ったら、何を失うのか」

「逆に、この特許を他社から買うことに、いくらの意味があるのか」

といった問いです。

どちらが正しいという話ではありません。

見ている目的が違うのです。

投資家から見れば、さらに見方が変わる

会社の外から見る投資家であれば、個々の特許の技術的な強さそのものより、

その知財が将来の競争力につながるのか。

利益やキャッシュ・フローにつながるのか。

競争優位をどの程度持続させられるのか。

という点に関心が向きます。

企業が、

「当社は○千件の特許を保有しています」

と説明しても、それだけでは企業価値への影響は分かりません。

重要なのは、

その知財が、事業の中でどのような価値を生み出しているのか

ということです。

知財を経営や企業価値につなげて説明するには、この視点が必要になります。

「強さ」は重要。でも、それだけでは金額にならない

ここで誤解してほしくないのは、特許の技術的な優位性や権利の強さが重要ではない、ということではありません。

むしろ、特許権価値評価においても重要な検討要素です。

例えば、競合他社が簡単に回避できる特許と、回避することが難しい特許では、事業への影響も変わるでしょう。

技術的優位性が失われれば、将来の収益にも影響するかもしれません。

だからこそ、特許権の経済的価値を考えるときにも、技術や権利をきちんと見る必要があります。

ただし、

「強いから高い」

と直結させるのではなく、

その強さが、事業にどのような経済的効果をもたらしているのか

までつなげて考える必要があります。

知財を「会社の価値」につなげて考える

知財関係者にとって重要な特許が、必ずしも経営者や投資家から同じように見えるとは限りません。

逆に、知財としては目立たない特許が、実は重要な事業を支えていることもあります。

知財の価値を金額で考えるということは、

技術を見る。

権利を見る。

だけではなく、

その知財が、会社の事業や利益にどのようにつながっているのかを見ることでもあります。

この視点が加わることで、知財部門で使われている「強い」「重要」という言葉を、経営者、他部門、投資家にも伝わる言葉へつなげることができます。

そして、

「では、その経済的価値を実際にどうやって金額にするのか

という問題が出てきます。

次の記事では、特許権価値評価で使われる基本的な評価方法について見ていきます。

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