知財・無形資産コラム

特許件数の前に、自社の強みをどう説明する?――イトーキ統合報告書2025に学ぶ

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知財開示事例連載・第1回

統合報告書に知財の情報を載せることになったら、何から準備すればよいでしょうか。知財部が用意しやすいのは、特許や意匠の保有件数です。権利の蓄積を示す大切な情報ですが、その数字だけでは、会社のどの強みを支え、顧客へ何を届けているかまでは伝わりません。

件数を集める作業と並行して、事業部や経営企画部に「どの事業の、どんな強みを支える知財か」を尋ねてみると、数字の使い道が見えてきます。

今回はイトーキの『統合報告書2025』を取り上げます。報告書のp.3–4、p.27、p.47を順にたどり、強み、価値提供領域、知財活動がどうつながるかを見てみます。同社の表現を自社に当てはめるのではなく、説明の組み立て方を学ぶための読み方です。

まず、会社が「強み」と呼ぶものを確認する

イトーキはp.3–4の価値創造プロセスで、強みを「Tech×Design based on PEOPLE」と表しています。p.27では、先駆的な取組の実績やノウハウ、長年培った信頼を、この言葉で表す強みとして説明しています。技術や権利だけを取り出すのではなく、人やデザイン、蓄積した経験を含めて会社の強みを語っているのです。〔出典1:p.3–4、出典2:p.27〕

知財部員が自社について考える場合も、最初から「自社には特許が何件ある」と言い切るより、事業部に「顧客が自社を選ぶ理由は何ですか」と聞くところから始められます。製品の使いやすさなのか、顧客に合わせた提案なのか、製造の信頼性なのか。答えが事業によって違えば、無理に一つの標語へまとめる必要はありません。

強みが使われる事業を、図の中で探す

報告書のp.27は、ワークプレイス事業と設備機器・パブリック事業などの価値提供領域を示しています。家具やオフィス空間に限らず、さまざまな「働く」場に向けて何を提供するかを読める構成です。知財部員がこの図を見るなら、並ぶ領域のうち、担当する技術や権利がどこに関わるのかを考えるとよいでしょう。〔出典2:p.27〕

たとえば自社の一つの製品を取り上げ、「どの顧客の、どんな課題に応えるのか」を事業部に聞いてみます。その答えを支える技術、デザイン、データ、ノウハウのうち、知財部が把握しているものは何か。ここまでつなぐと、権利の名称や件数を開示する意味も説明しやすくなります。

この整理は、知財部だけで完成させるものではありません。顧客の評価を知る営業や事業部、開発の経緯を知る研究開発部門と照らし合わせることで、知財の情報が事業の言葉になります。

知財戦略の図では、件数の先まで読む

p.47の知財戦略では、イトーキは製品開発やオフィス空間デザイン提案で生まれた価値を知財として保護し、事業に活用する方針を説明しています。知財機能を経営企画部門の傘下に置くことも記していますが、この記事で参考にしたいのは組織図の形ではなく、強みと活動のつなぎ方です。〔出典3:p.47〕

同ページの図には、事業領域、開発や提案などの活動、特許・意匠などのアウトプット、その先のアウトカムが並びます。特許や意匠の指標は、そこで説明が終わる数字ではなく、会社が目指す価値への道筋の中に置かれています。ただし、アウトカム欄には将来の目標も含まれます。目標値を既に達成した成果として読まないことが大切です。〔出典3:p.47〕

件数は、保護した成果や活動の広がりを示す材料です。一方、件数と売上を並べただけでは、前者が後者を生んだとは分かりません。自社の開示でも「何を保護したか」「どの事業でどう使うか」「確認できた成果と今後の目標は何か」を分けて説明したいところです。

自社なら、まず一つの事例を四つの欄にする

報告書全体の図をいきなり作るのは大変です。まずは一つの製品やサービスを選び、次の四つの欄を埋めてみてください。

確認すること 書き込む内容の例 主に確認する相手
顧客の課題 顧客が何に困り、何を選ぶ基準にしているか 営業・事業部
自社の強み その課題に、自社はどのような方法で応えるか 事業部・研究開発部門
支える知財 特許、意匠、ノウハウ、データなどが果たす役割と公開できる範囲 知財部・研究開発部門
確認できる成果 製品や提案への採用、顧客からの評価など、資料で確かめられる事実 事業部・経営企画部門

空欄は、知財部の推測で埋めなくて構いません。誰に何を確認するかが分かれば、この表は社内の対話に使えます。実績として確認できたことと、今後期待することも分けて書きます。

イトーキの報告書から学べるのは、特許件数に代わる一つの万能な指標ではありません。会社の強みを示し、どの事業で使われるかを説明し、その中に知財の活動や指標を置くという順序です。自社でも一つの事例から、そのつながりを確かめてみてください。

次回は、強みから事業上の成果へ進む説明を、味の素の開示を手がかりに考えます。

参照資料

イトーキに関する記述は同報告書に基づきます。四つの欄による整理と自社での確認方法は本記事の提案です。