知財・無形資産コラム

技術の説明を、製品と顧客の話に変えるには?――ニッスイ『統合報告書2025』に学ぶ

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知財開示事例連載・第4回

知財部には、保有する技術や特許を説明する資料があります。しかし、統合報告書に「高度な精製技術を保有しています」と書くだけでは、読む人は製品や顧客を思い浮かべられません。

前回はデンソーの報告書を手がかりに、事業を支える研究開発と知財の使い方を考えました。今回は、技術がどんな製品になり、誰に届けられるのかをたどります。

ニッスイグループの『統合報告書2025』には、魚油を抽出・精製する技術が、医薬品原料や食品向け原料などに使われる様子が示されています。同じ素材を使っていても、製薬メーカー向けの原料と食品向けの原料では、届ける相手も製品の形も違います。この違いを開示にどう書くかを考えます。

魚油は、どこを通って顧客に届くのか

報告書のp.16は、ニッスイグループの強みを「バリューチェーン」で示しています。世界各地から水産物を調達し、研究開発、加工・生産、品質保証を通じて商品を届ける流れです。

魚油の例では、青魚の油脂を抽出・精製して魚油として販売するとともに、高純度化したEPAを医薬品原料として販売すると説明しています。原料が製品へ変わる過程と、その製品の届け先を、ひと続きで読める構成です。〔出典1:p.16〕

自社でも製品を一つ選び、「どの原料・技術が、どの製品を支え、誰が使うのか」を一枚に書き出せます。知財部だけで分からない部分は、事業部や研究開発部門に聞きます。そうすると、技術の名称だけでは見えなかった用途が具体的になります。

同じ素材でも、相手が変われば製品の形が変わる

p.43–44のファインケミカル事業の説明では、魚油に関わる技術の用途がさらに具体的になります。

ニッスイは、EPA・DHAの精製技術と生産機能、食品添加技術などを強みとして挙げています。p.44には、国内外の製薬メーカー向けの高純度EPAの医薬品原料、健康食品向けのEPA・DHA原料、粉ミルク向けのDHA原料、精製魚油を食品に添加した通販商品が、区別して示されています。〔出典2:p.43–44〕

ここで注目したいのは、EPA・DHAという素材の説明から、「誰が、何に使うために受け取るか」へ進んでいる点です。顧客に合わせて精製・濃縮した原料や、食品へ添加しやすく加工した原料など、製品の形を変えています。自社が製薬メーカーへ原料を販売するのか、食品メーカーへ原料を販売するのか、消費者へ商品を届けるのか。その違いを明示すると、技術の用途が伝わります。

知財部が「この技術にはさまざまな用途があります」と書きたくなったときほど、事業部に一つ具体例を聞いてみるとよいでしょう。顧客は誰か。その顧客は何を作るために使うのか。用途が定まると、技術のどの特徴を説明すべきかも見えてきます。

精製技術だけで製品の説明を終わらせない

p.44には、高度な精製技術に加えて、脱臭、乳化、酸化防止などの技術を活かした商品を広げる方針も示されています。また、精製魚油を食品に添加した通販商品については、魚油精製技術と食品事業の品質保証のノウハウを組み合わせた説明になっています。〔出典3:p.44〕

「高純度にする技術」だけでなく、「食品へ使える形にする技術」まで見ると、開発の成果が顧客の用途に近づきます。p.44に挙がる脱臭・乳化・酸化防止や品質保証のノウハウは、そのつながりを説明する手がかりになります。

特許リストだけから原稿を作ると、製品化に必要な加工技術や品質保証のノウハウが抜けやすくなります。研究開発部門には「製品として使えるようにするため、ほかにどんな工夫が必要でしたか」と聞く。事業部には「顧客はどの特徴を評価していますか」と聞く。その答えをつなぐと、技術の一覧が製品の説明に変わります。

自社の製品を一つ選んで確かめる

最初から全製品の技術と用途を整理する必要はありません。報告書で紹介できる製品や原料を一つ選び、次の三つを確かめてみてください。

確認すること 主に聞く相手 開示原稿に使う答え
誰が、何のために使う製品か 事業部・営業 顧客と用途。企業へ渡す原料・部品か、消費者へ届ける商品か
顧客が求める特徴を何が支えるか 研究開発・品質保証 中心となる技術と、加工や品質維持に必要な工夫
どの技術を、どこまで説明できるか 知財部・研究開発 権利化した技術やノウハウのうち、公表できる内容

たとえば、事実を確認したうえで「○○向けに△△を提供しています。その特徴を□□の技術と◇◇のノウハウが支えています」と書けます。顧客と製品から始めれば、技術や知財の説明が事業の話につながります。

第1回では会社の強み、第2回では成長事業、第3回では研究開発と知財を見ました。今回、その技術が使われる製品と届け先までたどりました。次回は、一つの製品や事業を支える技術以外の強みにも目を向けます。

参照資料

  1. ニッスイグループ『統合報告書2025』「ニッスイグループの強み『バリューチェーン』」p.16
  2. 同「ファインケミカル事業」p.43–44
  3. 同「ファインケミカル事業」p.44の事業内容・商品展開