知財・無形資産コラム

前年の知財開示を、翌年どう改善する?――リコーの統合報告書2024・2025を読み比べる

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知財開示事例連載・第10回

統合報告書を出した後、知財部には翌年の原稿作成が待っています。前年の特許件数を更新し、新しい活動を一つ足す前に、前年の説明で読み手に伝わったことと、まだ具体例が必要なことを確かめたいところです。

前回はリコーの『統合報告書2025』を手がかりに、知財活動を事業の説明につなげ、読み手の反応をIR担当者と受け取る方法を考えました。最終回では、前年の説明を翌年の原稿でどう具体化するかを考えます。

リコーの2024年版と2025年版を読み比べ、すでに示していた会社の強みを、顧客の事例によってどう具体化できるかを見ていきます。

前年の原稿には、何が書かれていたか

リコーの『統合報告書2024』は、「顧客基盤」「顧客接点」「自社IP(知的財産)」を会社の強みとして挙げています。これらを活かした事業の仕組みと利益成長の関係を説明する、という編集方針です。価値創造のページでは、顧客の課題に応じて生まれたソリューションを、ほかの地域にも展開する流れを示しています。〔出典1・2〕

2024年版のイノベーション戦略にも、知財ポートフォリオの整備が記されています。つまり、2025年版で初めて知財と事業を結び付けたわけではありません。〔出典3〕

自社でも改訂を始める前に、前年の原稿から一段落を選んで読み直します。どの事業について、どんな強みを書いたか。その強みが顧客の仕事にどう役立つところまで説明できているか。説明の骨格を確かめると、翌年に加えるべき材料が見えてきます。

顧客の事例を加えると、何が見えるか

リコーは2025年版の冒頭で、前年の報告書への意見や日々の対話から得た示唆を踏まえ、会社の強みと将来に向けた取り組みのつながりを、より具体的に示す方針を説明しています。制作担当者も、戦略の具体性を高めるため、顧客の導入事例を充実させたと述べています。〔出典4・5〕

2025年版の特集には、DocuWareの導入事例があります。顧客企業は、購買業務で扱う書類の保存や業務のデジタル化を必要としていました。報告書は、導入時に現場の仕事を大きく変えないよう配慮したこと、導入後に書類の郵送や入力に関わる仕事がどう変わったかまで説明しています。〔出典6〕

2024年版の「顧客基盤・顧客接点・自社IPを活かす」という説明に、この事例を重ねると、強みが働く場面を想像しやすくなります。誰が何に困り、どのサービスを使い、仕事がどう変わったか。会社全体の仕組みを、顧客の一つの仕事から読むことができます。

翌年の原稿を考える際にも、前年の強みの説明を捨てる必要はありません。その説明を読んだ人が次に知りたい顧客や用途を選び、確認できた事例を添える方法があります。

知財部は、事例のどこを確かめるか

顧客事例を知財開示に生かすとき、知財部が製品名や特許番号から書き始めると、顧客の仕事が見えにくくなります。まず事業部や営業担当者に、顧客は何に困り、提供した製品・サービスのどの点を評価したかを聞きます。次に研究開発部門と、その働きを支える技術、ソフトウェアやノウハウを確かめます。

リコーの2024年版は知財ポートフォリオの整備を説明し、2025年版は知財部門が顧客接点を持つ部門と連携して、事業の各段階で必要な知財を考える方針も示しています。両年の記載を並べると、整備する知財の話に加え、顧客への提供価値を考える過程で知財部がどこに関わるかを読めます。〔出典3・7〕

自社の原稿でも、事例に関わる技術をすべて説明する必要はありません。顧客の課題と製品・サービスの働きを押さえ、その働きを支える知財について、公表できる範囲を関係部門と確認します。

前年の一段落を、具体的にする

前年の統合報告書から、知財や技術に触れた一段落を選びます。翌年の原稿を書き始める前に、次の三つを確認してみてください。

確認すること 主に聞く相手 翌年の原稿に使う材料
前年は、どの強みと事業の関係を書いたか 知財部・IR 残すべき説明と、具体例が足りない箇所
読み手は何をさらに知りたがったか IR・事業部 寄せられた質問と、説明が足りなかった点
顧客の事例で説明を深められるか 事業部・営業・研究開発 顧客の課題、製品・サービス、技術や知財の役割、公表できる結果

たとえば前年に「自社の技術と顧客接点を活かしてサービスを提供しています」と書いたなら、翌年は一つの事例について「顧客の○○という仕事に対し、□□を提供しています。その働きを△△の技術や知見が支えています」と具体化できます。事例の内容と公表できる範囲は、関係部門に確認します。

この連載では、会社の強みから始め、成長事業、研究開発、製品と顧客、知財の組み合わせ、知財部の活動、社外との対話へと進んできました。翌年の報告書では、これらを一度に書き足す必要はありません。前年の原稿で説明を深めたい一箇所を選び、事業や顧客の事実を加えるところから始められます。

参照資料

  1. リコー『リコーグループ統合報告書2024』冒頭「リコーグループ統合報告書2024について」。
  2. 同「価値創造プロセス」。
  3. 同「機能戦略/イノベーション戦略」。
  4. リコー『リコーグループ統合報告書2025』冒頭「リコーグループ統合報告書2025について」。
  5. リコー「『リコーグループ統合報告書』はリコーの未来を描く地図」。
  6. リコー『リコーグループ統合報告書2025』「お客様事例」。
  7. 同「技術・知財戦略/デジタル戦略」。