特許権価値評価コラム

第1回/全10回

「この特許、いくら?」―特許権価値評価とは何をするものなのか

「この特許、いくら?」

特許権を持っていても、その価値を金額で聞かれると、答えるのは意外と難しいものです。

自社で開発した重要な技術である。多額の研究開発費をかけている。主力製品に使われている。競合他社の参入を防いでいる。

こうした事情があっても、それだけで、

「この特許権は3,000万円です」

と金額が決まるわけではありません。

では、特許権の価値を金額で考えるとは、どういうことなのでしょうか。

特許権価値評価とは、特許権が持つ経済的な価値を、技術、権利、事業、市場、収益などの情報に基づいて金額として検討することです。

「知財評価」というと、何を評価する?

「知財評価」「知的財産評価」「特許評価」といった言葉を聞くと、技術としてどれくらい優れているのか、権利範囲は広いのか、他社が回避しにくいのか、競合他社の特許と比べて強いのか、といった、特許や知財の「強さ」を評価することをイメージする方も多いと思います。

実際、「知財評価」という言葉は、こうした定性的な評価を含め、さまざまな意味で使われています。

一方、当研究所が行う特許権価値評価で中心となるのは、

「その特許権に、経済的にどの程度の価値があるのか」

を金額として考えることです。

もちろん、両者は無関係ではありません。

技術の優位性や権利の強さも、特許権の経済的価値を考えるうえで重要な要素です。

しかし、

「強い特許=金額としての価値も高い」

と単純に決まるわけではありません。

この違いについては、別の記事で詳しく取り上げます。

どんなときに、特許権を金額で評価するのか

例えば、特許権を売却するとき、ライセンスを検討するとき、関係会社間で特許権を移転するとき、現物出資するとき、社内で保有する特許権の価値を検討するときなどです。

こうした場面では、「重要な特許です」「強い特許です」という説明だけではなく、

「では、いくらなのか」

という問題が出てきます。

そこで、技術や権利だけでなく、事業、市場、収益なども踏まえて、その特許権の経済的価値を金額として検討します。

「開発に1億円かかったから、1億円」ではない

特許権の価値を考えるとき、比較的イメージしやすいのは、開発にかかった費用かもしれません。

例えば、ある技術の研究開発に1億円かかったとします。

では、その特許権には1億円の価値があるのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

多額の研究開発費をかけても、事業に結びつかない技術もあります。反対に、比較的少ない開発費から生まれた技術が、大きな利益につながることもあります。

「いくらかけたか」と「いくらの価値があるか」は、同じではありません。

実際の評価では、開発に要したコストも含め、対象となる特許権や評価目的、利用できる情報などに応じて、評価方法を検討します

具体的な評価方法については、別の記事で取り上げます。

売上を生んでいない特許権は、価値ゼロ?

現在、その特許権から直接売上が発生していない。

そうすると、

「収益を生んでいないのだから、価値はないのでは?」

という疑問も出てきます。

しかし、これも必ずしもそうではありません。

例えば、その特許権が競合他社の参入を防ぎ、現在の事業を守っていることがあります。

特許権そのものが直接売上を生んでいなくても、その特許権があることによって既存の売上や利益が守られているのであれば、その役割を無視することはできません。

いわゆる「防衛特許」のようなケースです。

この点は、第2記事で詳しく取り上げます。

「正しい金額」は一つなのでしょうか

では、さまざまな情報を集めて専門家が評価すれば、最後には唯一の「正しい金額」が出てくるのでしょうか。

実際には、特許権の価値について、常に唯一無二の金額が存在するわけではありません。

評価する目的、利用できる情報、将来についての前提、採用する評価方法などによって、評価結果が変わることがあります。

しかし、

「唯一の正解がない」

ことと、

「いくらでもいい」

ことは、まったく違います。

なぜその評価方法を使ったのか、どのような情報を確認したのか、どのような前提を置いたのか、なぜその金額になったのか。

評価額とともに、その根拠を示すことが重要になります。

唯一の正解がないのに、なぜ評価する必要があるのか。

これは特許権価値評価を考えるうえで重要なテーマなので、第3記事で詳しく取り上げます。

自分で「この特許は1億円」と言うのとは何が違う?

もう一つ、特許権価値評価には重要な意味があります。

特許権を持っている会社自身が、

「この特許権には1億円の価値があると考えています」

と主張することはできます。

しかし、売却先や取引先、社内の意思決定者、株主などに説明する場面では、

「なぜ1億円なのか」

という根拠が求められます。

そこで、当事者だけで金額を決めるのではなく、第三者が資料を確認し、一定の評価方法や前提に基づいて価値を検討することにも意味があります。

もちろん、

「第三者が評価したから、その金額が絶対に正しい」

ということではありません。

それでも、当事者だけで決めた数字なのか、第三者による検討を経た数字なのかによって、その金額を第三者に説明するときの意味が違います。

評価額を算定し、その根拠を整理する。そして、第三者による検討を評価報告書という形で残す。

特許権価値評価には、金額と根拠を示すだけでなく、評価の客観性を高めるという役割もあります。

特許権の価値は、特許だけを見ても分からない

特許権価値評価というと、特許公報を詳しく分析すれば金額が出るように思えるかもしれません。

もちろん、技術や権利の内容を確認することは重要です。

しかし、経済的な価値を考えるには、それだけでは足りません。

その技術がどのような事業に使われているのか、どのような市場があるのか、どのような収益につながっているのか、その特許権が事業の中でどのような役割を果たしているのか。

こうした事業との関係も含めて考える必要があります。

そのため、特許権価値評価では、知財の視点と、事業・会計・ファイナンスの視点をつなげて考えていきます。

「この特許、いくら?」を、根拠の見える数字に

特許権価値評価は、単に計算式に数字を入れて答えを出すものではありません。

特許権や技術を確認し、事業や市場との関係を整理して、その経済的価値を金額へつなげていく。そして、評価額だけでなく、「なぜ、その金額なのか」を説明できる形にする。

さらに、第三者による評価を通じて、その金額の客観性を高める。

「この特許、いくら?」を、根拠の見える数字に。

それが、当研究所が行う特許権価値評価です。

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