特許権価値評価コラム

第3回/全10回

唯一の正解がないのに、なぜ特許権を評価するのか?

特許権価値評価について説明すると、よく聞かれることがあります。

評価を依頼すれば、この特許権の唯一の正しい金額を出してもらえるのですか?」

期待されているのは、

「この特許権の価値は5,000万円です。それが正解です」

という答えかもしれません。

しかし実際には、特許権の価値について、常に唯一無二の「正解」が存在するわけではありません。

そう説明すると、

「では、お金をかけて評価する意味はあるの?」

という疑問が出てきます。

ここが、特許権価値評価について最も誤解されやすいところの一つです。

「唯一の正解がない」のは、特許権だけではない

実は、これは特許権に限った話ではありません。

例えば、非上場株式の価値。

事業そのものの価値。

これらも、誰が計算しても必ず同じ金額になるわけではありません。

将来の収益をどう予測するか。

どのようなリスクを考えるか。

どの時点で評価するか。

どのような前提を置くか。

こうした条件によって評価額は変わります。

それでも、会社を売買するときに、

「正解が一つではないから、企業価値を考える必要はありません」

とはなりません。

特許権も同じです。

唯一の正解がないことと、評価する意味がないことは別の問題です。

買い手から「1,000万円です」と言われたら?

例えば、自社が保有する特許権の売却を検討しているとします。

買い手から、

「この特許権なら1,000万円ですね」

と言われました。

そこで、

「なぜ1,000万円なのですか?」

と聞いたとします。

買い手から、

「市場規模はこのくらいです。この技術による事業への影響をこう考えました。残存期間やリスクも踏まえると、この金額です」

と説明されたのであれば、その根拠を検討することができます。

前提がおかしい。

この市場予測は低すぎる。

このリスクの見方は妥当だ。

そうやって議論できます。

一方、

「特に根拠はありません。なんとなく1,000万円です」

と言われたらどうでしょうか。

その金額を、そのまま受け入れる必要はないでしょう。

ここに、評価する意味があります。

重要なのは、

「絶対に正しい数字が一つ存在するか」

ではなく、

「その金額に、検討できる根拠があるか」

です。

根拠がなければ、社内でも説明できない

同じことは、売買交渉だけではありません。

例えば、担当者が社内決裁で、

「この特許権を5,000万円で取得したいです」

と申請したとします。

決裁者から、

「なぜ5,000万円なのですか?」

と聞かれて、

「売り手がそう言っているからです」

だけでは、決裁を通すのは難しいでしょう。

なぜその金額なのか。

どのような情報を確認したのか。

どのような前提で考えたのか。

金額について意思決定する以上、その判断材料が必要になります。

特許権価値評価は、「正解を当てる」ためだけに行うものではありません。

金額について検討し、説明し、意思決定するための根拠を作る。

そこにも大きな意味があります。

自分たちで根拠を作れば、それでいい?

では、社内で計算して根拠を整理すれば、それで十分なのでしょうか。

目的によっては、それで足りる場合もあるでしょう。

一方で、売却交渉、取引先への説明、株主への説明、関係会社間取引など、当事者以外への説明が必要になる場面もあります。

例えば、売り手自身が、

「当社で検討した結果、この特許権は1億円です」

と説明することと、

第三者が資料を確認し、一定の前提と評価方法に基づいて検討した結果として1億円という評価額が示されていることは、同じではありません。

第三者による評価だからといって、その金額が絶対的な正解になるわけではありません。

しかし、

当事者だけで決めた金額ではなく、第三者による検討を経ている。

ということ自体が、その金額の客観性を説明する材料になります。

評価報告書は「金額が書いてある紙」ではない

そのため、評価報告書で重要なのは、最終的な評価額だけではありません。

何を評価したのか。

どのような資料を確認したのか。

どのような前提を置いたのか。

どのように検討したのか。

そして、なぜその評価額になったのか。

こうした評価の過程と根拠を整理して残すことにも意味があります。

後から、

「なぜ、この金額で取引したのか」

「なぜ、この金額で社内決裁したのか」

と問われたときにも、当時どのような情報に基づいて判断したのかを説明しやすくなります。

つまり評価報告書には、

金額を示すだけではなく、意思決定の根拠を第三者による評価として残す

という役割があります。

「正解が一つではない」からこそ、根拠が重要になる

特許権の価値に唯一の正解がない。

これは、評価が不要だという理由にはなりません。

むしろ逆です。

正解が一つに決まっているのであれば、その数字を調べれば済みます。

そうではないからこそ、

どのような情報を使ったのか。

どのような前提を置いたのか。

どのように考えたのか。

なぜ、その金額になったのか。

を説明できることが重要になります。

唯一の正解がない。
だから、何でもいいのではない。
唯一の正解がないからこそ、根拠のある評価が必要になる。

そして、必要に応じて第三者による評価を受け、その検討過程を評価報告書として残すことで、金額の客観性を高めることができます。

それが、特許権価値評価を行う大きな意味の一つです。

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