特許権価値評価コラム

第4回/全10回

使っていない特許、そのままでいい?―「保有する」以外の選択肢

企業が特許権を取得すると、その後は長期間にわたって保有することがあります。

取得した当時は重要な技術だった。

新製品に使う予定だった。

競合他社への対抗上、必要だった。

しかし、事業環境は変わります。

製品の販売が終了した。

事業そのものから撤退した。

別の技術に置き換わった。

当初想定していた事業化が行われなかった。

その結果、

「特許権は持っているけれど、現在は使っていない」

という状態になることがあります。

特許権を保有し続ければ維持コストもかかるため、保有する意味を定期的に見直す必要もあります。

では、その特許権をどうすればよいのでしょうか。

「使っていない」だけで判断しない

最初に確認しておきたいのは、

「現在、自社製品に使っていない」

ことと、

「自社にとって価値がない」

ことは同じではないということです。

第2記事で取り上げたように、自社が直接利用していなくても、競合他社の参入を防ぐなど、事業を守る役割を果たしている特許権もあります。

将来の製品に利用する予定があるかもしれません。

他の特許権と組み合わせることで意味を持っている場合もあります。

したがって、

「使っていないから処分する」

と単純に判断するのではなく、

その特許権を保有していることに、現在どのような意味があるのか

をまず確認する必要があります。

特許権は「持つ」だけのものではない

そのうえで、自社で保有し続ける必要性が低い特許権が見つかったとします。

選択肢の一つは、権利を維持せず、手放すことです。

しかし、それだけではありません。

特許権は、他社に譲渡することができます。

つまり、「売る」という選択肢があります。

自社では利用する予定がなくても、別の会社にとっては、

新しい製品に利用できる。

既存事業を強化できる。

新しい市場へ参入するために使える。

といった価値を持っているかもしれません。

自社にとって利用価値が低くなったことと、他社にとっても価値がないことは同じではありません。

「自社では使わない」が「市場価値ゼロ」とは限らない

例えば、ある会社が一つの事業から撤退したとします。

その事業で使用していた特許権も、自社では必要なくなりました。

自社の事業だけを見れば、

「もう使わない特許」

です。

しかし、同じ市場で事業を続けている会社から見ればどうでしょうか。

あるいは、その技術を別の用途に展開できる会社から見ればどうでしょうか。

自社では利用しなくなった技術でも、別の会社の事業と組み合わさることで価値を持つ可能性があります。

ここは、設備や不動産など他の資産と少し似ています。

自社では使わなくなったからといって、その資産の価値が直ちにゼロになるわけではありません。

特許権についても、

「自社で使う価値」と「他社が使う価値」は必ずしも同じではない

という視点が必要です。

売るなら、「いくらで?」という問題が出てくる

実際に特許権の売却を検討すると、次に出てくるのが価格の問題です。

売り手としては、

「できるだけ高く売りたい」

でしょう。

買い手としては、

「できるだけ安く買いたい」

でしょう。

しかし、それだけでは交渉は進みません。

売り手が、

「この特許権は1億円です」

と言えば、買い手から、

「なぜ1億円なのですか?」

と聞かれます。

逆に、買い手から、

「1,000万円なら買います」

と言われれば、売り手としても、

「なぜ1,000万円なのか」

を確認したくなるでしょう。

ここで、第3記事で説明した「根拠のある金額」が重要になります。

評価額と売買価格は、必ずしも同じではない

ここも重要です。

特許権価値評価によって5,000万円という評価額が出たからといって、

「必ず5,000万円で売買しなければならない」

ということではありません。

実際の売買価格には、

売り手がどの程度売却を急いでいるのか。

買い手がその特許権をどの程度必要としているのか。

他に買い手候補がいるのか。

交渉力はどちらにあるのか。

といった個別の事情も影響します。

これは、企業や不動産の売買でも同じです。

評価額は、実際の取引価格を自動的に決めるものではありません。

一方で、

「では、どのあたりの金額を基準に交渉を始めるのか」

を考える材料にはなります。

「持ち続ける」が最善とは限らない

企業には、長年の研究開発によって多くの特許権が蓄積されています。

その中には、

現在の事業に不可欠なもの。

将来必要になるもの。

競合他社への防衛上重要なもの。

がある一方で、

現在の事業では利用しておらず、将来の利用予定も限定的なものが含まれていることもあります。

すべてを同じように「保有し続ける」のではなく、

保有する。

活用する。

ライセンスする

売却する。

必要性がなくなれば維持を終了する。

といった選択肢の中から、その特許権に合った方法を考えることが重要です。

「眠っている特許」を、もう一度見直してみる

特許権は、取得した時点で役割が固定されるものではありません。

事業環境が変われば、その特許権の会社にとっての意味も変わります。

そして、自社で使わなくなった特許権でも、別の会社にとって価値を持つことがあります。

だからこそ、

「使っていないから価値がない」

でも、

「せっかく取得したから、とりあえず持っておく」

でもなく、

この特許権を、これからどう活かすのか

という視点で見直してみる。

その選択肢の一つが、特許権の売却です。

そして売却を考えるとき、

「この特許、いくら?」

という問いが、具体的な経営課題になります。

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