特許権価値評価コラム

第8回/全10回

事業の利益は、どこまで特許のもの?―特許権の「寄与」をどう考えるか

ある特許技術を使った事業から、年間1億円の利益が出ているとします。

では、その1億円は、すべてその特許権が生み出した利益なのでしょうか。

もちろん、そう単純ではありません。

事業の利益は、特許権だけで生み出されているわけではないからです。

特許権価値評価では、

「事業全体が生み出す利益のうち、その特許権はどの程度貢献しているのか」

を考える必要があります。

ここが、特許権の価値を金額にするときの難しいところの一つです。

利益を生み出しているのは、特許権だけではない

例えば、特許技術を使った製品がよく売れているとします。

その理由は何でしょうか。

技術が優れている。

ブランドに信頼がある。

営業力が強い。

販売網が充実している。

製造コストが低い。

長年の顧客関係がある。

デザインが優れている。

こうしたさまざまな要素が組み合わさって、製品の売上や利益が生まれています。

したがって、

「この事業から1億円の利益が出ているから、特許権が1億円の利益を生み出している」

とは考えられません。

事業全体が生み出す利益と、その中で特許権が果たしている役割を分けて考える必要があります。

そこで考える「寄与」という視点

その切り分けを考えるときに出てくるのが、「寄与」という考え方です。

簡単にいえば、

その事業の利益に対して、対象となる特許権がどの程度貢献しているのか

を考えます。

例えば、対象となる特許技術が製品の競争力の中心になっている場合。

反対に、製品の一部分に使われているだけで、他の技術でも容易に代替できる場合。

同じ利益を生み出している事業でも、特許権の寄与は同じとは限りません。

この違いを無視して、事業全体の利益をそのまま特許権に帰属させることはできません。

「この特許がなかったら?」と考えてみる

寄与を考えるうえで、一つの視点になるのが、

「この特許権がなかったら、事業はどう変わるのか」

という問いです。

例えば、

製品そのものを販売できなくなるのか。

競合他社と同じような製品になってしまうのか。

価格を下げなければ売れなくなるのか。

製造コストが上がるのか。

別の技術で代替できるのか。

と考えていきます。

その特許権がなくても事業がほとんど変わらないのであれば、特許権の経済的な寄与は限定的かもしれません。

一方、その特許権がなくなることで製品の競争力や収益性が大きく低下するのであれば、事業への寄与も大きいと考えることができます。

第2記事で取り上げた「防衛特許」についても、この視点から考えることができます。

直接売上を生んでいなくても、その特許権がなくなることで競争環境が大きく変わるのであれば、事業に対して一定の寄与をしている可能性があります。

「寄与」はどうやって考える?

では、事業の利益に対する特許権の寄与を、どのように考えるのでしょうか。

すべての特許権について、その寄与を機械的に算出できる公式があるわけではありません。

対象となる技術や権利の内容。

事業での使われ方。

代替技術の有無。

競争優位への影響。

他の特許権や技術との関係。

ブランドや販売力など、他の価値要因。

こうした情報を確認しながら、事業全体の中で対象となる特許権が果たしている役割を検討します。

そして、こうした検討を踏まえて、特許権に帰属する部分を評価に反映していきます。

特許権が複数ある場合はどうする?

実際の製品や事業では、一つの特許権だけが使われているとは限りません。

一つの製品に複数の特許権が使われていることもあります。

さらに、

ノウハウ。

商標やブランド。

製造技術。

ソフトウェア。

顧客関係。

など、さまざまな要素が事業の競争力を支えていることがあります。

このような場合、

「この事業の利益のうち、対象となる特許権がどの程度貢献しているのか」

を考えるには、他の特許権や価値要因との関係も見る必要があります。

単に事業の利益に一定の割合を掛ければよい、というものではありません。

技術的に重要でも、利益への寄与が同じとは限らない

ここは、第5記事で取り上げた「強い特許」と経済的価値の違いにもつながります。

知財の観点から非常に重要な特許権であっても、その技術が事業の利益にどの程度結びついているかは別に検討する必要があります。

反対に、一見すると目立たない技術でも、製造コストを大きく下げていたり、重要な製品の競争力を支えていたりすることがあります。

特許権の経済的価値を考えるには、

「この特許は重要か」

だけではなく、

「この特許は、事業にどのような経済的効果をもたらしているのか」

まで見る必要があります。

金額を出す前に、事業との関係を見る

特許権価値評価では、評価方法や計算式も重要です。

しかし、その前に、

その特許権は、どの事業に使われているのか。

その事業は、何によって利益を生み出しているのか。

その中で、特許権はどのような役割を果たしているのか。

を理解する必要があります。

事業全体の利益を、そのまま特許権の利益と考えることはできません。

だからこそ、

事業全体を見る。
その中で特許権が果たしている役割を見る。
そして、その寄与を金額につなげる。

このプロセスが、特許権の経済的価値を考えるうえで重要になります。

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