特許権価値評価コラム

関係会社間で特許を譲渡・ライセンスするとき、価格はどう決める?知財担当者が押さえたい考え方

グループ会社が保有する特許を別の関係会社へ移したり、使用を認めたりするとき、その価格はグループ内で自由に決められるのでしょうか。

関係会社間では価格を調整しやすい一方、税務上は合理的な根拠が求められます。価値のある特許を無償や著しく低い価格で移転すれば、国内取引では寄附金、海外取引では移転価格税制が問題になる可能性があります。

ただし、特許の価格は、取得費や研究開発費だけでは決まりません。特許から合理的に見込まれる収益、契約条件、事業化に必要な追加投資、各社の役割やリスクなどを踏まえて検討する必要があります。

本記事では、関係会社間で特許を譲渡・ライセンスするときの価格について、知財担当者が押さえておきたい考え方を解説します。

グループ内の取引でも価格の根拠が必要

関係会社間の特許取引では、「同じグループだから無償でよい」「研究開発費を回収できればよい」と判断してしまうことがあります。

しかし、税務上は、関係会社ではなく独立した第三者との取引であっても、同じ条件を選んだと説明できるかが重要になります。

価格を決める際には、少なくとも次の点を明確にしておく必要があります。

  • どの特許やノウハウを取引の対象とするのか
  • どの製品や事業で利用するのか
  • 譲渡とライセンスのどちらを選ぶのか
  • 独占か非独占か
  • 利用できる地域や期間はどこまでか
  • 将来どの程度の収益が見込まれるのか
  • 各社がどのような役割とリスクを負うのか
  • どの評価方法で価格や料率を決めたのか

必要なのは価格の数字だけではありません。その価格に至った前提と判断過程も説明できるようにしておくことが重要です。

国内取引と海外取引では税務上の問題が異なる

国内の関係会社へ特許を著しく低い価格で譲渡した場合、譲渡した会社では、本来受け取るべき対価との差額が寄附金として扱われる可能性があります。

特許を無償で使用させたり、合理的な理由なく使用料を低く設定したりした場合にも、関係会社へ経済的利益を与えたと判断されることがあります。利益を受けた会社側でも、受贈益などが問題になる可能性があります。

海外の関係会社との取引では、移転価格税制を検討します。海外子会社などとの取引価格が、独立した第三者間であれば設定されたと考えられる「独立企業間価格」に基づいているかが確認されます。

例えば、日本で開発した重要な特許を海外子会社へ低額で譲渡し、その後の利益の多くが海外子会社に帰属する場合、譲渡時の価格が適切であったかが問題になり得ます。

国内と海外では適用される制度が異なりますが、どちらも合理的な理由なく利益を一方へ移していないかという点が重要になります。

研究開発費と特許の価値は一致しない

特許の価格を検討するとき、これまでに要した研究開発費を基礎にすることがあります。原価は客観的に把握しやすく、価格を考えるための一つの情報にはなります。

しかし、研究開発費と特許の価値は必ずしも一致しません。

多額の研究開発費を投じた技術でも、代替技術が登場した場合や、対象市場が縮小した場合には、合理的に見込まれる収益が小さくなることがあります。反対に、少ない費用で開発された技術でも、製品の競争力や利益に大きく貢献するのであれば、高い価値を持つ可能性があります。

したがって、原価だけで価格を決めるのではなく、価格決定時点で特許から合理的に見込まれる収益を検討する必要があります。

これは、将来を正確に予測するという意味ではありません。当時入手できた市場情報、事業計画、技術の成熟度、競合技術などを踏まえ、合理的な予測を作成するということです。

特許の名義だけで利益の帰属は決まらない

特許権者として登録されている会社が、特許から生じる利益のすべてを当然に受け取れるとは限りません。

価格や利益の帰属を考える際には、各社が実際にどのような活動を行っているかを確認します。具体的には、技術の開発、改良、維持、権利保護、製品化や事業での活用、資金負担、重要なリスクの管理などです。

これらを整理する国際的な考え方は、各活動の英語の頭文字から「DEMPE」と呼ばれています。

例えば、親会社が特許権を保有していても、子会社が継続的な改良や製品化を行い、そのための投資と事業上のリスクを負担している場合、子会社の貢献を無視して対価を決めることは適切ではありません。

知財担当者は、特許の登録名義だけでなく、誰が技術を生み出し、価値を高め、事業で活用しているのかを整理する必要があります。

譲渡価格・ライセンス料率を決める方法

類似する第三者間取引と比較する

内容や条件が近い第三者間の特許取引があれば、その譲渡価格やライセンス料率を参考にできます。

ただし、同じ技術分野の契約でも、特許の強さ、独占性、対象地域、契約期間、技術支援の有無などが異なれば、単純には比較できません。公開されている平均料率や「売上高の3%」といった数値を、そのまま採用するだけでは根拠が不十分な場合があります。

将来収益を基礎に評価する

特許を利用することで将来得られる利益やキャッシュ・フローを予測し、その現在価値を基礎に価格を検討する方法です。

売上予測、利益率、特許の寄与度、事業化の成功可能性、技術の陳腐化などが評価結果に影響します。どの数値を使ったかだけでなく、なぜその前提を採用したのかを記録することが大切です。

各社の貢献に応じて利益を分ける

親会社と子会社の双方が独自の技術やノウハウを提供し、単純に比較できる取引がない場合には、事業から得られる利益を各社の貢献に応じて配分する方法を検討することがあります。

この場合は、各社が行う活動、使用する資産、負担するリスクを具体的に整理する必要があります。

不確実性が高い技術では契約条件も工夫する

開発途中の技術や新しい市場で使われる特許は、価格決定時点における将来収益の不確実性が高くなります。

しかし、不確実性が高いことを理由に将来収益を検討せず、研究開発費だけで価格を決めることが常に合理的とは限りません。入手できる情報を使って収益とリスクを見積もり、その前提を残すことが重要です。

予測の幅が大きい場合には、最初から固定額だけで譲渡するのではなく、次のような条件を組み合わせる方法もあります。

  • 売上高などに連動するロイヤルティ
  • 開発、承認、製品化などに応じたマイルストーン
  • 一定の成果が生じた場合の追加対価

こうした条件は、将来の不確実性を当事者間で分担する方法になります。ただし、対価の計算方法、対象となる売上、適用期間などを契約書で明確にする必要があります。

知財評価額がそのまま税務上の価格になるとは限らない

知財評価による算定額は、関係会社間の価格を決めるための有力な資料になります。ただし、評価書に記載された金額が、そのまま税務上も認められるとは限りません。

知財評価では、評価目的に応じて対象となる権利や前提条件を設定します。税務では、それに加えて、実際の契約条件、各社の役割とリスク、第三者間取引との比較などが確認されます。

関係会社間取引に評価額を使用するのであれば、評価を依頼する段階で、次の点を明らかにしておく必要があります。

  • 譲渡価格とライセンス料率のどちらを求めるのか
  • 特許だけか、ノウハウや技術支援も含むのか
  • どの地域、期間、製品を対象とするのか
  • 独占的な権利を与えるのか
  • 各社が今後どのような役割を担うのか

評価の目的と実際の取引条件がずれていれば、精緻な計算をしても価格の説明としては不十分になります。

価格を決めた時点の資料を残す

関係会社間の特許取引では、後から結果だけを見て価格の妥当性を説明することが難しい場合があります。そのため、契約書に加えて、価格を決めた時点の資料を残しておくことが重要です。

特に、次の資料を整理しておくと、判断過程を説明しやすくなります。

  • 対象となる特許、ノウハウ、技術情報の一覧
  • 特許が製品や事業に果たす役割
  • 価格決定時点の事業計画と収益予測
  • 各社の開発、改良、保護、活用に関する役割
  • 追加投資とリスクの負担関係
  • 採用した評価方法、計算前提、比較対象
  • 取引形態と価格を決定した会議の記録

実際の収益が予測と異なったとしても、当時の情報に基づいて合理的に判断したことを示せる資料には重要な意味があります。

まとめ

関係会社間で特許を譲渡・ライセンスするときも、価格を自由に決められるわけではありません。国内取引では寄附金等、海外取引では移転価格税制を踏まえ、合理的な価格を検討する必要があります。

価格は研究開発費だけで決めるのではなく、特許から合理的に見込まれる収益、契約条件、事業化に必要な投資、各社の役割やリスクなどを総合的に考えます。特許の名義だけでなく、技術の開発、改良、維持、保護、活用に誰が貢献したかを確認することも重要です。

知財評価は価格決定の有力な基礎になりますが、評価目的と実際の取引条件が一致していなければ、税務上の説明として十分とは限りません。取引の検討段階から、知財、事業、契約、税務の情報を結び付けておく必要があります。

株式会社知的財産権価値算定研究所では、特許権をはじめとする知的財産の価値評価を行っています。関係会社間の譲渡やライセンスのために評価が必要な場合は、対象となる権利、契約条件、評価目的を踏まえてご相談ください。