知財・無形資産コラム

研究開発の成果を、どの事業でどう生かす?――デンソー『統合報告書2025』に学ぶ、技術戦略と知財のつなぎ方

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知財開示事例連載・第3回

知財部で統合報告書の原稿を頼まれ、研究開発費と特許件数を並べたところで、手が止まることがあります。その研究は会社が伸ばそうとする事業とどう関係し、生まれた技術をどう使うのか。数字と件数だけでは、その話まで書けません。

前回は味の素グループの報告書を手がかりに、会社の強みを重点成長領域へ結び付ける説明を考えました。今回は、その事業を支える研究開発と知財活動へ進みます。

デンソーの『統合報告書2025』には、重点的に開発する技術を語る「CTO MESSAGE」と、知財の保護・活用を語る「知財担当役員 MESSAGE」があります。二つを続けて読むと、技術戦略と知財戦略を別々の紹介で終わらせない方法が見えてきます。

まず「どの技術を、何のために開発するか」

デンソーは中長期の技術戦略で、「電動化/エネルギーマネジメント」「自動化」を重点領域とし、それらを支える基盤技術として「半導体」「ソフトウェア」を挙げています。事業や組織をまたぐ開発テーマも設け、全社で取り組むと説明しています。〔出典1:p.36–37〕

この記載は、研究テーマを単に列挙していません。会社が進める電動化などの方向を示し、そこに半導体やソフトウェアがどう関わるかを伝えています。読む側は「半導体を研究している」という情報から、「その研究が会社のどの方向を支えるか」へ進めます。

自社の原稿でも、技術名の前に問いを置けます。この開発は、どの事業で何を実現するために必要なのか。 その答えを事業部と研究開発部門に確かめれば、知財部が持つ技術情報を、事業の説明につなげられます。

特許件数の先に、知財の使い方がある

デンソーは同じ報告書で、2024年度の研究開発費や特許の出願・保有件数も示しています。取り組みの規模を知る入口です。さらに知財担当役員のメッセージを読むと、独自技術を権利として守るだけでなく、他社との協業や標準化にも知財を使う方向が示されています。対象には特許権だけでなく、ソフトウェアやノウハウも含まれます。〔出典2:p.52–53〕

知財部の開示原稿に置き換えると、件数の次に説明したいのは「どの技術を、事業でどう使うために守っているか」です。権利化するもの、社内にノウハウとして蓄えるもの、他社との連携に使うもの。選択の理由が見えると、知財活動は事業から切り離された作業ではなくなります。

SiCパワー半導体では、どこまでの技術を考えているか

報告書の具体例が、SiCパワー半導体です。デンソーは車載向けの事業戦略として、内製化による生産革新と、パートナー企業との連携によるサプライチェーンの強化を挙げています。また、ウエハの製造からパワーデバイス、それを組み込んだインバータまで、一連のIPを自社で保有すると説明しています。〔出典3:p.54–55〕

半導体の製造工程を詳しく知らなくても、ここから読めることがあります。開発の対象は、一つの部品に関する一件の特許だけではありません。材料や製造、デバイス、それを使う製品へと技術がつながり、その範囲で何を自社の強みとして持つかを考えています。

さらに報告書は、独自性の高い技術を特許として取得し、製造分野のノウハウも含めて、保有するIPをパートナー企業とどう共有しながら成長につなげるかを検討していると述べています。ここでは、自社に蓄える技術と連携に使う技術の両方が事業戦略の中にあります。〔出典3:p.55〕

自社で同じような説明を考えるときも、個々の特許を先に選ぶより、まず事業に必要な技術のつながりを描く方が分かりやすいでしょう。その中で、どこを権利化し、どこにノウハウを蓄え、どの部分で他社と組むのかを聞き取ります。

自社の研究テーマを一つ選んでみる

最初からすべての研究開発を説明する必要はありません。重点的なテーマを一つ選び、事業部、研究開発部門、知財部で次の三つを確かめます。

確認すること 主に聞く相手 原稿にするときの一文の形
どの事業・顧客の課題に向けた開発か 事業部 「○○事業で、△△という課題に応えるため、□□の開発を進めています」
そのために必要な技術は何か 研究開発部門 「その実現には、□□に加えて、◇◇の技術が必要です」
技術をどう守り、活用するか 知財部・事業部 「中核となる技術を○○で保護し、△△については協業を検討しています」

表の文は自社で確認した事実に合わせて書き換えます。特に、これから目指すことと、すでに実施したことは分けて記録します。答えが得られない欄があれば、そこが次に関係部門へ聞くべき点です。

第1回では会社の強み、第2回ではその強みを使う成長事業を見ました。今回は、事業を支える開発と知財の使い方をたどりました。次回は、その取り組みが製品や顧客への提供価値としてどう示されるかを考えます。

参照資料

  1. デンソー『統合報告書2025』「技術戦略 CTO MESSAGE」p.36–37
  2. 同「知的資本/知財担当役員 MESSAGE」p.52–53
  3. 同「知的資本/パワー半導体領域」p.54–55