知財・無形資産コラム

知財の説明は、投資家との対話につながる?――リコー『統合報告書2025』に学ぶ

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知財開示事例連載・第9回

知財部が統合報告書の原稿を頼まれ、特許の取り組みや保有件数をまとめた。IR担当者から「その知財活動は、会社が伸ばそうとしている事業とどうつながりますか」と聞かれたら、何を見せればよいでしょうか。活動を正確に書くだけでは、読む人が事業のこれからを考えるための材料にならないことがあります。

前回はアネスト岩田の報告書を手がかりに、知財部で見つけた課題や活動の優先順位を、社内の関係者とどう議論するかを考えました。今回は、その活動を社外へどう説明し、読み手の関心をどう受け取るかを考えます。

リコーの『リコーグループ統合報告書2025』には、技術・知財戦略の説明と、株主との対話の方針が載っています。報告書の制作担当者も、技術・知財のページに対する機関投資家の反応を得ようとした取り組みを紹介しています。原稿を出した後まで視野を広げるための事例です。

会社が伝えたい変化から、知財を読む

リコーは2025年版の冒頭で、会社の強みと財務・将来に向けた取り組みのつながりを具体的に示す方針を掲げています。デジタルサービスの会社への変革を説明するにあたり、顧客への価値提供事例も紹介しています。〔出典1〕

知財部がこの報告書を読むなら、特許のページだけを抜き出す前に、会社がどのような変革を伝えようとしているかを押さえたいところです。技術や知財の記載も、その変革を支える取り組みとして読むと、位置付けが明確になります。

自社の原稿でも「知財ポートフォリオを強化しています」と書く前に、事業部とIR担当者に聞けます。どの事業で、顧客への提供価値をどう変えようとしているのか。まずその答えを共有すれば、知財部が紹介する活動を選びやすくなります。

顧客との接点から、必要な知財を考える

リコーの「技術・知財戦略/デジタル戦略」では、知財を全社技術戦略と連動して強化すると説明しています。デジタルサービス領域では、知財部門がお客様との接点を持つ部門との連携を強め、ビジネスの上流から下流までに必要な知財を構想し、権利化する方針を示しています。〔出典2:p.54〕

この説明は、知財部の活動を事業から離れた作業として並べていません。顧客と接する部門が課題を知り、その課題に応えるサービスを考える。知財部門は、その過程で必要になる知財を事業部門とともに考える。読み手は、知財がどこで事業に関わるのかをたどれます。

同じページには、2025年度にデジタルサービス領域の特許出願比率60%超を目指す目標も示されています。数字を原稿に使うなら、達成済みの実績ではなく、知財活動をどの領域へ向けようとしているかを示す目標として読む必要があります。〔出典2:p.54〕

自社でも出願件数を示す際、「どの事業のために、どの部門と連携しているか」を一つの事例で添えられます。顧客の課題を聞く人、その課題に応える技術を作る人、知財を検討する人の仕事をつなぐと、数字の意味も伝わりやすくなります。

知財のページが、どう読まれたかを聞く

リコーの報告書制作担当者による公式記事には、技術・知財戦略のページへの反応を直接得るため、機関投資家へのヒアリングに質問を加えたという話が出てきます。技術とデジタルの担当部門が伝えたかった方向が、読み手にどう届いたかを確かめようとした取り組みです。記事には、その質問への回答内容や評価結果までは示されていません。〔出典3〕

統合報告書本体にも、株主との対話の方針が載っています。IR・SR専任部署に加え、対話の目的などに応じて経営陣や事業の責任者が関わり、得られた見解を経営層や執行部門と共有すると説明しています。〔出典4〕

知財部が投資家との面談を直接担当するとは限りません。それでも、IR担当者と事前に「知財の説明で何を伝えたいか」を共有し、公開後に関連する質問があったかを確かめることはできます。質問があれば、事業部や研究開発部門とともに事実を整理する。そうすれば、知財部の仕事は原稿の提出で終わりません。

自社の一つの事業で、説明と対話をつなぐ

まず重点事業を一つ選びます。既存の統合報告書やIR資料を見ながら、次の三つを関係部門に確認してみてください。

確認すること 主に聞く相手 記録する内容
読み手に理解してほしい事業の変化は何か 経営企画・事業部・IR 重点事業、顧客への価値、実施済みの取り組みと今後の方針
その変化を支える知財活動をどう説明できるか 知財部・研究開発・事業部 公表できる技術や権利の事例、顧客や事業との関係
説明を読んだ人から、どんな反応があったか IR・知財部 実際に寄せられた質問、回答に必要な事実、確認する担当者

まだ知財に関する質問が寄せられていなければ、最後の欄を無理に埋める必要はありません。IR担当者と、どの記載について反応を確かめたいかを相談できます。社内で予想した質問と、実際に寄せられた質問は分けておきます。

たとえば「○○事業では顧客の△△という課題に応えるため、□□の技術と知財の整備を進めています」と説明するなら、その事業や技術について読み手がさらに知りたがった点を確認する。次の対話に必要な資料や説明を、関係部門と用意できます。

前回は、知財活動の優先順位を社内で話し合うところまで見ました。今回は、その活動を事業の説明として社外へ届け、読み手の反応を受け取るところまで進みました。次回は、前年の記載を振り返り、翌年の報告書をどこから改善するかを考えます。

参照資料

  1. リコー『リコーグループ統合報告書2025』冒頭「リコーグループ統合報告書2025について」。
  2. 同「技術・知財戦略/デジタル戦略」p.53–54。
  3. リコー「『リコーグループ統合報告書』はリコーの未来を描く地図」(2025年12月25日)。
  4. リコー『リコーグループ統合報告書2025』「株主との建設的な対話に関する方針」。